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定年の延長・年功から脱却 長期的な視点で
厚生年金の支給開始年齢の65歳への引き上げに伴い、その”つなぎ”として65歳定年は現実的な経営課題。名古屋鉄道は60歳の年収を従来の8割とし、昇給率も一般社員の半分に落とす代わりに、65歳までの就労を保証。横河電機は年収保証こそ従来の6割と厳しいものの、会社への貢献度次第で最高4割まで加算する実力主義をとり、高齢社員のやる気を引き出している。
名鉄 昇給額 一般の51%
名鉄に勤める下村三千男さんはこの10月1日で62歳を迎えた。最も乗降客の多い新名古屋駅とその周辺8駅を統括する新名古屋幹事駅に毎日、出勤する。
60歳以上全社の2.5%
悠々自適を楽しんでも不思議はない年だが、現役バリバリの副幹事駅長。毎日、管轄内の駅巡回に精を出す。「体力、精神力は60歳前と変わらない。あと3年間、からだの続く限り勤めたい」と張り切る。
名鉄は大手企業で数少ない「65歳定年制」を敷く会社。1994年4月に導入した。現在、60歳以上の社員は約200人おり、全社員の2.5%に相当する。いち早く取り組んだ背景には、世間より四半世紀早く直面した「団塊の世代」の存在がある。
戦後、名鉄は雇用確保という国策に沿って大量採用した時期がある。60歳定年制を続けていたのでは80年代半ば以降、この年齢層が毎年300−400人のペースで退職していくことが見込まれた。
「仕事に精通したベテラン層を一挙に失うと技能の継承ができず、業務の運営に支障をきたす恐れがあった。鉄道会社として地域と断絶しないためにも退職のスローダウン化が必要だった」と林哲郎副社長は定年延長前の状況を振り返る。
ただ、年功序列型賃金体系をそのまま維持するわけにはいかず、3年がかりで労働組合を説得した。
賃金改定の中身は、60歳の年収を在職老齢年金を含めて59歳の年収の80%にとどめ、60−64歳の昇給額も一般従業員の51%分とするという条件で定年延長をスタート。退職金を算定する基礎給も60歳到達時点の基本給をペースとしてそれ以上上がっていくことはない。しかも毎年0.5歳ずつ10年がかりで慎重に年齢を引き上げる・・というもの。
下村さんも、2年前に年収が減ったが、「65歳まで働けることを思えば賃金のダウンは仕方ないと割り切っている」
だが、60歳を超えて仕事を続けている社員は思ったほど多くない。ここ2年間で60歳に到達した人のうち、3人に2人は退職している。その理由として「体力の減退」「自治会など地域活動をしないとならない」「厚生年金や雇用保険を考えると仕事を続ける必要を感じない」などが多いという。
名鉄は55歳以上なら自己都合でも定年扱いで退職金を支給しており、こうした制度も高齢者の選択の幅を広げているようだ。
管理職のポスト不足
一方、定年後の再雇用制度も導入している。65歳以上の社員は現在、7人。再雇用の条件は「会社にとって必要な人材」。高齢者でも能力さえあれば会社側が評価する仕組みだ。
3年目に入り、65歳定年制に課題も出てきた。一つは管理職のポスト不足が生じていること。65歳まで役職も継続するため、若手にしわ寄せが及び始めたのだ。今年度から64歳を役職定年とし、「あと1−2歳、年齢を引き下げようと考えている」(林副社長)。
社会的な仕組み必要
さらに今年度から職能給のウェートを6割まで高めた能力主義の賃金体系を全社員を対象に導入したが、これと比較して定年延長に伴う高齢者の賃金体系や退職金の見直しは「踏み込みが足りない」(林副社長)と判断している。
大手企業で名鉄のように65歳定年制を定着させたのはまれた。しかし、定年延長を視野に入れて一歩進んだ動きをしている企業は皆無ではない。
横河電機 貢献度に応じ加算
横河電機は今春、60歳定年を迎えるホワイトカラーの管理職を同じ職場で同じ肩書のまま雇用するという、定年延長にきわめて近い「エキスパート・マネージャー制度」を新設した。
契約は2年単位。待遇は定年退職直前の年収の60%を保証、さらに貢献度合いに応じて5%から40%を加算する。
さらに定年前より貢献したと会社側で判断した場合には特別加算もあり、理論的には60歳前の年収を上回ることも可能だ。「年齢という概念を取り払い、高齢者でも会社にフィードバックした者を評価し、対価を支払う」。笹田学人事部長は新制度の考え方をこう説明する。
横河電機の高齢者活用の歴史は古く、75年に工場の定年退職者の受け皿子会社を設立したのが始まりだ。エキスパート・マネージャー制度も「20年間取り組んできて、風土があるからできた」と笹田部長は胸を張る。この制度の適用対象者は会社が選抜するが、いずれ希望する管理職をすべて再雇用できる仕組みも導入する計画だ。
高年齢者雇用開発協会の中村正理事長は「定年延長問題の回答は百社百様。これという決め手はない」という。ただ先進企業のように高齢者雇用の環境が整備されていない企業が、いきなり定年延長やそれに近い形態を導入するのは「木に竹を継ぐ」結果を招きかねないのは確かだ。
「定年延長をソフト・ランディングさせる社会的な仕組み作りが必要」(中村理事長)という環境の中で、企業としてどうシステム作りにかかわるのか。会社や業種の枠を超えた情報交換が必要だろう。
平成9年10月8日 日経産業新聞