トピックへ戻る
給付水準引き下げ
厚生年金改定 審議会が意見書
支給開始 将来65歳に 賃金スライド凍結
1999年の公的年金制度改定のあり方を検討してきた年金審議会(厚相の諮問機関、会長・京極純一東大名誉教授)は9日、少子高齢化がピークを迎える2025年に向け、厚生年金の段階的な水準の引き下げと、保険料率の引き上げは「避けられない」と明記した意見書をまとめ、宮下創平厚相に提出した。給付水準引き下げを明示したのは始めて。保険料率の上昇幅を抑えるには給付総額の伸びの抑制が必要で、給付水準引き下げのほか、現役世代の賃金上昇を給付額に反映させる賃金スライドの実施凍結など四つの削減策を示した。厚生省は意見書に基づき、具体的な改定案を月内にまとめる。
意見書のポイント
- 給付水準の引き下げ
- 賃金スライドの凍結
- 賃金収入のある65歳から69歳の年金支給の制限
- 報酬比例部分を含む厚生年金の支給開始を将来、65歳に上げる
意見書は、厚生年金について、少子高齢化により年金の支給対象が増える一方、保険料を負担する現役世代が減るため「従来の延長線上での対応は許されなくなっている」と指摘。保険料の増加幅を現役世代が負担できる程度に収めるため、年金財政の給付総額の伸びを圧縮するよう提言した。
その方法として、これから年金を受け取る人の給付水準(現行は現役世代の手取り月収の80%に設定)の引き下げ・賃金スライドを「当分の間行わない」・厚生年金すべての支給開始年齢を将来、60歳から65歳に段階的に引き上げる・60歳代後半の在職者に厚生年金を適用して保険料を求め、支給も一定の制限をする−の四つの削減策を示した。すでに支給を受けていたり間もなく受ける人の年金額は保証する。
また、現役世代間の不公平是正のため、保険料徴収の基準(現行は月収)をボーナスを含む年収に改める総報酬制の導入を求めている。ただ、給付水準の引き下げ幅についての目安は示さず、現役世代の保険料の負担の「限界」も「30%以内」から「20%以内」(いずれも月収比。労使折半)まで幅広い意見の併記にとどまった。
厚生省は意見書を踏まえ、年内に政府・自民党内の調整を終え、関連法案を来春の通常国会に提出する方針だ。
年金 「将来受給」の皆さんよく考えて
年金審意見書の要旨
年金審議会が9日まとめた「国民年金・厚生年金保険制度改正に関する意見」の要旨は次の通り。
Tはじめに
将来の給付の具体的な姿を示して確実な年金を約束し、負担についても将来にわたって維持可能な限度を示し現役世代の理解を求める必要がある。
U基本的考え方
受給者の大幅な増加と現役世代の人口の減少から、現役世代の負担引き上げは避けられない。将来世代の負担を過重にしないことが重要で、将来の給付総額の伸びの抑制は避けられない。2025年ごろの社会を年頭に改革を進めるのが適当だ。
V個別検討項目
(1)公的年金
基礎年金
財源を将来的に税で賄う方式に転換すべきだとの主張があるが、年金や税のあり方を根本的に変える問題であり、現状では現実的でなく、さらに慎重な検討が必要。
国庫負担率を将来的に2分の1に引き上げるべきだとの意見が強かったが、現在の財政・経済状況では次期改正で引き上げを行うのは現実的に極めて困難。
基礎年金の額の引き下げは現実的に困難。当面、物価スライドによる購買力維持にとどめるのが適当だ。
厚生年金の給付・負担水準
負担の限界水準について、労使合わせて月収の30%以内との意見や、厳しい経済環境から26%程度、20%以内との意見があった。
給付水準は世界有数で、引き下げはやむを得ない。この場合、年金受給者や間もなく年金を受給する者は、現在の受給額、または受給できるはずの額を物価スライドを含め保証する。
スライド方式
年金裁定後の物価スライドは必要不可欠だが、賃金スライドを当分の間行わないようにすることはやむを得ない。
在職老齢年金
60歳代後半の在職者にも厚生年金を適用して保険料負担を求め、報酬比例部分の支給することが適当だ。
支給開始年齢
2001年から厚生年金の定額部分の支給開始年齢を段階的に65歳に引き上げるが、報酬比例部分(別個の給付)は60歳支給としていた。しかし別個の給付も十分な準備期間をとり支給開始年齢を段階的に65歳に引き上げるべきだとの意見が強かった。
保険料負担
将来の現役世代の負担軽減のため適切な段階的引き上げを行うべきだ。具体的な引き上げ方は、現下の経済状況に配慮した方法を検討すべきだ。
国民年金の複雑な免除基準を見直し、的確な事務処理を行う必要がある。
総報酬制
厚生年金の保険料は月給に賦課されているが、ボーナスの額による負担の不公平を是正するためボーナスも賦課の対象にし給付に反映させる総報酬制を導入すべきである。
第3号被保険者など女性の年金
多くの課題があり、民事法制、税制など専門家による検討の場を設け、早急に検討に着手すべきだ。
学生への適用
学生の保険料は親が払っている例が多く、学生本人が社会人になってから納付できるような対策を検討すべきだ。
(2)厚生年金基金等
代行制度
引き続き検討すべきだ。
確定拠出型の給付設計
自助努力の支援という観点で、労使合意を前提に導入を認めるべきだ。その際は税制上の措置が不可欠。
(3)年金積立金の運用=略
審議会意見書 国民は納得するか?
公的年金制度の基盤を揺るがす最大の危機は少子高齢化でも経済成長の鈍化でもない。国民の信用を失うことだ。年金審議会(厚相の諮問機関)が9日まとめた意見書に、どれくらいの国民が納得するだろうか。
少子高齢化を迎え、制度を変えなければ、将来、現役世代の保険料負担は過重になる。保険料を負担できる程度に抑えるには給付総額圧縮はやむを得ない、と意見書はいう。保険料は上がる一方、給付水準は下げられ、現役世代に極めて厳しい内容になった。
審議会は「聖域なき改革」を掲げた。未納・未加入者対策にもなる基礎年金の財源を税で賄う方式や、厚生年金の民営化論など「抜本改革」につながる新たな手法にも意見書は初めて言及した。
だが、実態を踏まえた精密な議論には入れず、いずれも先送りした。サラリーマン世帯の専業主婦に保険料負担を求めることの是非など「女性と年金」をめぐる課題にも答えを出せなかった。抜本改革を見送り、様子を見ようという「つなぎの改定」といえる。
社会保障制度は曲がり角に立っている。介護保険、医療保険と組み合わせた論議はもとより、雇用不安に応える視点も求められる。税制の整備も不可欠だ。省庁単位の縦割りを廃し、包括的な論議ができるよう審議会のあり方も見直す時期に来ている。
焦点は厚生省の改定案に移る。同省が昨年発表した「五つの選択肢」については「いたずらに国民の不安をかきたてた」との批判は根強い。同省は月内にまとめる改定案に信頼回復の処方せんを示すことで、その責任をとる必要がある。
平成10年10月10日 毎日新聞