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給付抑制で帳じり合わせ

厚生省年金改革案


 厚生省が自民党に示した年金制度の改革案は、保険料負担の上昇を抑えるために給付を抑制するという年金財政の安直なつじつま合わせに終始した。厚生年金を現役時代に自分で積み立てる方式への移行問題や、多額の保険料未納に直面している国民年金(基礎年金)の財源問題をめぐる議論は素通りし、抜本的な対応策には踏み込んでいない。公的年金が縮小していく中で重要性が増す企業年金の改革案も示しておらず、今後の課題として残された。



抜本改革は先送り
「確定拠出型」導入触れず

 厚生省が示した三案はいずれも民間サラリーマンが加入する厚生年金の改革が主眼。サラリーマンの保険料負担をピーク時でも年収の20%程度(これを労使折半)に抑えるためには、給付をどのようにして抑えればよいかを今の制度の枠組みを壊さない範囲で考えた結果だ。

 一方、対象者の3人に1人が保険料を払っていない国民年金に関しては、保険料の半額免除制度の創設などを提案しているものの、抜本対策は示していない。しかも、現在月額13,300円の保険料が改革案では2010年代に21,000円〜23,000円(99年度価格)まで上がる。物価上昇などを踏まえた名目額では37,000〜41,000円にもなる。未納者はさらに増えることが予想される。

 全国民共通の国民年金の崩壊を防ぐための手段としては、財源を確実に徴収でき、負担能力に応じた負担ともなる消費税で賄うべきだという議論がある。税方式になれば国民年金分の保険料を含んでいる厚生年金保険料も下げることが可能。抜本改革案として議論は避けて通れない。

 企業年金については、掛け金を一定とし積立金の運用成績次第で将来の年金額が決まる確定拠出型年金制度の導入期待が高まっているが、厚生省案はまったくふれていない。同省は「年末までには企業年金の改革方向も示す」というが、確定拠出型年金の導入時期などを明示できるかどうかは不透明だ。

 このほか、高齢者にも応分の負担を求める方向にある医療・介護保険と年金制度の調整も残された課題。上智大の山崎泰彦教授は「改革案のように年金給付を抑制すれば医療や介護の費用負担を求めることが困難になる」と指摘する。国民の老後の不安を解消するためには社会保障制度全体の改革像を示すことも必要だ。



部分年金

 現在60歳であるサラリーマンの年金の満額支給開始年齢を2001年から2013年度にかけて段階的に引き上げるのに伴い、60歳代前半の人が満額年金を受け取れる年齢になるまで支給する予定の年金。支給額は現役時代の報酬により異なるが、おおむね満額年金の半分程度になる。前回94年度の年金制度改正で導入が決まった。

 例えば来年4月1日時点で52〜53歳の男性は60歳から3年間は部分年金を受け取り、63歳から満額の年金を受け取る。49歳以下の人は満額支給開始が65歳になるため、60歳代前半の5年間は部分年金を受け取る予定だった。



ポイント解説

年金受給「65歳から」迫る

 厚生省の年金改革案は、2025年度に向けて年金の受給開始年齢を65歳に引き上げる選択を国民に迫っている。60歳代前半に支給する部分年金を廃止しなければ年金の削減率が大きくなるという第二、第三案を示すことで、部分年金の廃止を盛り込んだ第一案の妥協性を強調する内容。ただ、年金を受給する65歳まで雇用をどう確保するかという課題は残されたままだ。

給付の抑制 賃金スライド凍結

 三案は、2つの給付抑制策を共通して盛り込んでいる。現役世代の賃金の伸びに応じて年金額を増やす賃金スライドの凍結と、65〜69歳の在職者に保険料を納めてもらい、収入が一定額以上ならば年金を減額する制度の導入だ。ともに99年度にも実施する。

 これに加え、第一案は部分年金を2013年度(女性は2018年度)から段階的に廃止する。男性の場合、来年4月1日時点で46〜49歳の人は60歳から部分年金を5年間受け取れるが、44〜45歳の人は61歳、42〜43歳の人は62歳と3年おきに1歳ずつ受給開始年齢が繰り上がり、37歳以下の世代は部分年金がなくなる。

 希望すれば60歳から本来の年金の約7割に減額した年金を受け取れる道を作るが、この場合は65歳になっても満額年金はもらえず、生涯、減額年金を受け取りつづける。本来の満額年金を受け取るには65歳になるまで働くか蓄えを取り崩して生計をたてなければならない。その代わり65歳から受け取る年金額は夫がサラリーマン、妻が専業主婦の世帯で現行制度を維持した場合より2%少ないだけだ。

 第二、三案では部分年金を維持する代わりに、年金の削減率は大きくなる。厚生年金部分だけを下げて国民年金部分は抑制しない第二案に対し、第三案は国民年金も同幅で抑える。夫がサラリーマン、妻が専業主婦の世帯の年金の減額率は第二案では7%弱。第三案は10%になる。

 自営業者世帯の年金は第一、第二案では将来も現在と同水準だが、第三案では10%カットされる。

負担面の是正 ボーナスも含めて徴収

 三案とも保険料負担の問題を是正するために四つの対策を共通して盛り込んでいる。厚生省は四つとも数年以内に実施する方針だ。

 影響が大きいのはボーナスを含めた年収(総報酬)からの保険料の徴収。現行制度では基本的に月収から保険料を徴収しており、同じ年収でもボーナスの比率の高い人は低い人に比べて保険料負担が軽くなる。この不公平を解消するのが新方式の狙いだ。年収に占めるボーナスの比率が高い大企業とその従業員の負担は重くなる。

 給与所得者が育児休業を取りやすくなるように育児休業中の厚生年金保険料の企業負担を免除する。すでに免除している従業員の保険料に加えて企業の保険料も免除し、年金額は免除期間中も保険料を払ったものとして計算する。

 国民年金の未加入・未納対策として保険料の半額免除制度を創設する。現在は所得が課税最低限以下の世帯を対象にした全額免除制度があるが、より穏やかな基準で半額免除も可能とする。半額免除期間中の年金額は全額払っていた場合の3分の2になる。また、20歳以上の学生を対象に国民年金保険料の納付を卒業後まで猶予する仕組みも導入する。

保険料引き上げ 景気低迷に配慮

 三案とも保険料の引き上げ計画は同じで、厚生年金保険料の引き上げ幅は5年ごとに2%と従来計画の2.5%より0.5%圧縮する。99年10月に予定していた引き上げ時期についても、景気低迷に配慮して保険料上げを凍結すべきだという自民党などの要請にこたえて柔軟に見直す方針を示した。1、2年の凍結なら後の計画に大きな影響は出ないと厚生省は見ている。

平成10年10月29日 日本経済新聞