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04年度 年金見直しのゆくえ
社保審部会の議論から
2004年度の年金見直しが社会保障審議会年金部会(部会長・宮島洋東大副学長)で議論されています。9月26日までの9回にわたる部会論議で厚生労働省の検討案がほぼ示され、10月に総括的議論がおこなわれます。医療につづき国民に給付減・保険料アップの「痛み」を求める検討項目が目白押しです。
社保審部会で検討中のテーマ
○給付の自動カット
○すでに受給している人の給付削減
○年金課税の強化
○確定拠出・積立方式の一部導入
○保険料引き上げ凍結の解除
○財源確保に消費税増税
自動カットの仕組み
近藤師昭委員
(日本年金数理人会相談役) 「高度成長でドンドン右(肩)上がりでいった感覚の考え方は捨てて、(保険料の上限を設ける場合は)年金(給付)も自動的にマイナスが当然入るという考え方。若い方の痛みを年寄りも感じるという制度に作り直さないと不信感は払拭(ふっしょく)できない」
部会で焦点になっているのは給付の大幅削減です。従来のように、5年ごとの年金財政計算のたびに負担増を繰り返すことを打ち止めにしようということから、「思いきった」見直しが強調されています。
将来にわたって通用する仕組みとして厚労省が提案したのは、スウェーデンを参考にしたという、給付の「自動削減」制度です。保険料を年収の2割程度(現行13・58%、労使折半)まで段階的に引き上げ、そこを上限として固定させたあとは保険料収入に見合う分しか給付しないという「自動調整の手法」です。
強い反対意見はなく、メリットを主張する意見が優勢。堀勝洋委員(上智大教授)は「寿命を延長した分については自動的に給付水準を下げる、そういうことが考えられる」ほかの委員からも、寿命の平均(平均余命)を超えて長生きして年金を受け取ることを、年金財政上の「リスク(危険要因)」としてとらえる意見がでています。
厚労省は、少子化の進行による人口構造の変化や、経済情勢(保険料収支予測の前提となる成長率や物価、賃金上昇率など)の変化が想定を超えたとき、これに連動する制度として「保険料固定・給付内容変動の自動調整」を提案。経済「悪化」のさいの給付水準の低下を「どこまで許容できるか」という論点を示しています。
近藤委員は、給付水準が限度を超えて下がることもあるから「下限をどうするかが議論になる」と表明。在職時の給与の6割を確保するという現行の給付水準(厚労省モデル)の大幅ダウンを容認しています。
受給途中でも
神代和俊・部会長代理
(放送大学教授)「既裁定年金についても相当踏みこんで検討せざるを得ないと思います。仮に既裁定年金が財産権の一部であると考えられるとしても、それを制限する十分な公共的な必要性がある」
部会では、将来受け取る年金給付のカットだけでなく、いま受給している年金(既裁定年金)のカットも検討テーマの柱となっています。
すでに来年度の年金改悪として小泉内閣は物価スライドの凍結解簡で物価下落分(過去4年分で2.3%)を減額することを検討しています。受給途中の年金給付の減額は例のないことですが、厚労省は2004年度の制度見直しにも盛り込む姿勢です。部会長代理の神代委員はこれを全面的に後押しします。
厚労省が示した検討の論点は、物価下落以外の理由による受給途中の年金減額は「財産権に制約を加えることとなるので、憲法上許容されるか否かについて慎重な検討が必要」ということです。 これまで政府は質問主意書への答弁書(2001年2月)で、すでに決まっ年金受給権について「憲法第29条に規定する財産権である」としつつ、公共の福祉を実現・維持するために必要がある場合には「制約を加えることが憲法上許される」としています。部会では、年金制度の財政対策を理由にして財産権に「制約を加える」ことができるかどうかを検討しています。
2002年10月6日 赤旗
縮小・廃止が検討されている公的年金等控除額
@定額控除
100万円
(65歳未満の人 50万円
A定率控除
〔定額控除後の年金収入〕
360万円までの部分
25%
720万円までの部分
15%
720万円を超える部分
5%
最低保障額
140万円
(65歳未満の人 70万円
年金課税の強化
厚労省年金辣長
「受給している年金額を実質的に引き下げる措置として、年金課税の強化という方法もあろうかと思います。これは実はアメリカの1983年のレーガン改革でこういうことをやっている」
受給途中の給付カットをおこなう場合、いったい「どのような手法が適切か」。厚労省はその具体策として年金課税の見直しを求めています。
厚生年金や国民年金、共済年金などほとんどの公的年金の給付ば課税されます。課税対象は、年金給付(収入)から年金控除などを差し引いた部分となります。年金控除は定額控除(65歳以上100万円)と定率控除を合算したものになります。この控除にたいし部会の委員からは「過剰な優遇措置」(山崎泰彦上智大教授)などと問題視する意見が集中しています。大企業側の岡本康男委員(住友化学工業専務)は年金控除の「縮小・廃止」を要求しました。
公的年金控除による国税の減収は政府税制調査会資料で約一兆円(国税分)とされています。控除廃止となればこの分が新たに課税対象となり、高齢者への大増税を意味します。裏返せば巨額の年金給付を高齢者から取り上げることになります。
公的年金控除の見直しと合わせ、部会ではこれまで非課税だった遺族年金、障害年金についても、新たに課税対象とする検討をすすめています。
確定拠出・積立方式の一部導入
翁(おきな)百合委員
(日本総合研究所研究員)「賦課(ふか)方式の年金に、拠出建てや積立方式の要素を取り入れることによって、少子高齢化と経済の長期的な低成長という年金制度にたいするプレッシャーに耐えられるような制度構築を考えるべきではないか」
年金財政は、現役労働者の保険料と、積立金の運用収益、国庫負担が主な収入源です。保険料収入を、その時々の高齢者全体の年金給付にあてる賦課方式が現行制度の基本になっています。部会では賦課方式を年金財政の基本としつつ、積立方式・確定拠出方式(拠出建て)の一部導入が検討されています。
積立方式は、自分が将来受け取る年金給付に必要な原資を在職時の保険料であらかじめ積み立てておく制度です。さらに保険料の運用収益を上乗せして給付額を確定するのが確定拠出方式です。
現行の賦課方式では将来の給付額が算定方式によってあらかじめ確定していますが、確定拠出方式になると保険料の運用収益しだいで給付額が変動します。運用先となる株式の下落などによって元金の確保さえ不安定になります。日本では企業年金に昨年度から導入(日本型401K)されました。これを公的年金にどのような形で導入できるのかが部会の検討テーマです。
厚労省ば二つの方法を示しています。一つは、公的年金に付加する形で導入(任意加入)する方法があります。別案は、厚生年金の保険料の一部を確定拠出・積立型に強制的に切り替えるというものです。強制切り替えの場合、賦課方式で支えている現在の年金受給者の給付水準を下げないために、新たな財源が必要となります。
厚生年金の報酬比例部分を全部、積立方式に移行(民営化)する場合は、330兆円の財源が必要とされています。国の財政支出がなければ全部国民の負担増となる問題です。厚労省は民営化にっいては「現実的ではない」と否定的です。
確定拠出・積立方式の一部導入にたいし、翁委員は「個々人の拠出と給付をむすびつけて、これを開示することによって若年層の年金不信を解消する「年金財政にかかっているプレッシャー緩和する」と導入の”メリット”を紹介しました。
積立部分を私的年金に置き換えていけば、厚生年金の報酬比例部分の保険料のうち事業主負担がなくなります。岡本康男委員(住友化学工業取締役)は「積立方式等々のやり方も十分検討すべきではなかろうか」と導入に積極的です。
2002年10月7日 赤旗
保険料引き上げ凍結の解除
山崎泰彦委員
(上智大学教授) 「保険料水準につきましては、凍結は早急に解除すべきです。将来の保険料水準は総報酬ベース(年収)で20%程度の水準は許容されるべきではないか」
厚生年金、国民年金の保険料は、ほぼ5年ごとの年金財政計算で引き上げてきました。しかし前回改悪(2000年)では引き上げが「凍結」となりました。厚労省は、「引き上げを再開させることが必要」と部会に提案しました。
厚生年金の保険料率をかりにも現行の年収の13.58%(労使折半)に固定するならば、「直ちに給付水準を大幅に抑制することが必要になる」(厚労省年金課長)とのべました。たとえば、給付の四割削減もあるという試算も示して危機感をあおります。議論はもっばら2025年度までの引き上げ目標(最終保険料)をどうするかということに流れています。厚生年金の最終保険料率は20%程度まで引き上げ、それを超える負担増は難しいので、固定したあとは給付カットで年金財政を調整するという方向です。
厚労省の今後の社会保険料の負担増は年金にとどまらず、医療や雇用、介護など目白押しです。こうした社会保障全体の巨額の国民負担増による家計への打撃、将来不安の増大、個人消費冷えこみによる暮らし・経済への悪影響などは検討テーマに位置付けられていません。
給付財源確保で消費税増税の論議
矢野弘典委員
(日本経団連専務理事)「(基礎年金の)財源は当面国庫負担の2分の1への引き上げを実現し、その後に全国民が広く薄く負担する間接税による税方式への転換をおこなうべきである」
保険料の引き上げを緩和するため、2004四年度の見直しにあたって基礎年金への国庫負担を現行3分の1から2分の1に引き上げることが法の付則にもりこまれています。引き上げ実施は″安定財源の確保と一体でおこなう″ことが政府与党の方針です。部会では、この安定財源をどうするかを議論しています。
財界・大企業の委員は、引き上げの財源として消費税を含めた「間接税」による確保を強く主張しています。
厚労省は、基礎年金の支給額として、2002年度で15兆7000億円、2025年度で22兆9000億円と見込んでいます。2分の1への国庫負担引き上げで新たに必要となる費用は2兆5000億円です。消費税の1%分に相当する増税が必要ということになります。
仮に基礎年金を全額消費税で確保しようとすれば、2002年度で6.3%、2025年度で9.2%が必要です。この場合、税率14%を超える消費税を負担することになるので、厚労省も「国民合意がえられるのか」と慎重です。
国庫負担引き上げのための財源を消費税に求める意見にたいしても複数の委員が反対を表明しています。大沢真理委員(東大教授)は高齢者無職世帯や母子世帯にたいし「消費税負担は不釣り合いなまでに重い」と強調。間接税方式によって保険料負担に含まれている事業主負担が軽減されることを問題にしています。
内閣改造で留任した坂口力厚労相は、国庫負担2分の1への引き上げについて「財源をどうするかというあいまいな議論をする時期は過ぎており、消費税引き上げをお願いできるかどうかにかかっている。明確に国民に示すべきだと思う」(「日経」3日付)とインタビューに答えています。日本経団連も消費税増税を容認した年金「提言」を7日にまとめました。
今後の部会の論議が注目されます。年金部会は10月11日、29日の2回にわたり審議をおこなう予定です。論点全般にわたる集中討議で見直しの方向づけを行い、厚労省の改革案に反映させることになります。
(斉藤亜津紫記者)
2002年10月8日 赤旗